はたらくこと(彼の場合) その2

その日の夕方、1本の電話が鳴った。彼の自宅だった。電話を掛けたのは彼の上司。出たのは彼の母親だった。息子の会社、しかも上司からの電話。母親は驚くとともにとたんに不安を覚え、しかも上司の話は信じられないものであり愕然とした。「息子さんがずっと会社を無断欠勤をしておりまして、電話は掛けるのですが繋がるものの電話に出ないのです。親御さんのほうから連絡していただきたいと思いまして。」『......いったい、何が....どうして.......』母親はそんな漠然とした不安な思いを吹っ切りつつ、すぐに主人に連絡をし、息子の携帯に電話を掛けた。確かに繋がる。しかし、出ない。メールを送る。返信は無い。何度も電話を掛ける。出ない。その後、会社から戻った主人は、「これから行ってみた方がいいのではないか?」という。「そうね。」母親は家を出た主人を見送るとソファに身体を沈めた。 これまで帰省したときの息子の様子を思い浮かべてみる。正月、帰るのは難しいと云っていたのに有給がとれたからと帰ってきた.....『仕事はどう?』「うん、勤務時間が長くて疲れるけど、なんとかやってる。』 『そんな勤務時間じゃ辞めるヒトも出るんじゃないの?』『いや、そういうヒトはいない。辞めたいと思うヒトがいるならオレかもね。まっ、冗談だけど。』そんな会話をしたことを思い出した。冗談といっていたけど、アレは本音だったのではないか・・・・・・。そう思っていたとき、主人から電話が来た。「息子と電話連絡が着いた。来なくていいと云われたから戻るよ」「えっ!?」母親は息子に電話を掛けた。繋がった。「もしもし.....」「もしもし..........」「どう元気にしてる?お父さんね、休みがとれたから行ってみようか・・・ってことになって何度も電話してたのに、どうしたの?寝てたの?」ウソをついた。「うん、寝てた.....。」「ご飯食べた?これから?」「これから買ってくる」電話越しの息子の声はこれまでの電話での声と確かに違っていた。寝て起きたばかりなのかもしれないが覇気がまるで無く、少しろれつが廻っていない。『おかしい.......変だ。』息子の話を聴くのでは無く母は家の話をした。自分の話をした。「うん......うん..........」電話を切る様子は無かった。母親は話を続けた。どうでもいいことを話し続けた。『やはり、おかしい....』母親には不安がつのるばかりだった。主人が戻る。電話越しに聴こえないように携帯を手で押さえ「やっぱり、行って!」 「ろれつがおかしいだろ?」主人も息子の異変に気付いていた。電話に戻る。「ねえ、やっぱりお父さんが行くって。あのね、これから行くから○○時頃には着くから、鍵、開けといてくれる?」「うん、わかった。」素直に問いかけに応えた。「あのね、今日ね、□さんって云うヒトから電話があったの。心配してこっちに電話かけてくれたんだよ。」「............」息子は黙ってしまった。「もしもし、もしもし......。大丈夫だよ。お父さんがこれから行くし、何も心配すること無いんだよ。もしもし.....もしもし.....聞いてる?」「.......うん。」返事してくれた。『良かった』と母親は思った。すでに主人は家を出て、それでも電話は続けた。母親は繋がっていたかった。「お母さん、ごはん食べたの?」電話に出たときより声がしっかりしていた。「ううん、まだだよ。これから。」「そっか。じゃあ、食べたら?オレも買ってくるから。」「あー、そうだったね。何、買ってくるの?」「やきとりと餃子とパン」「へっ?何、その組み合わせ?」「いや、米は食べたくないから・・・・。」「どこで買ってくるの?駅前のあそこ?」「うん。」他愛の無い話。それでも母にとっては貴重な時間に思えた。「じゃあ、お父さん、行ったから玄関の鍵、あけといてね。電話、切るね。」「うん、わかった。」気付くと、2時間過ぎていた。

そして、次の日、息子は父親の車で実家に戻った。

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