作業場の居心地の良さ

私が小学2年か3年の頃までだったと思う。毎週日曜になると母の実家に行っていた。片道歩いて30分ほど、子どもには歩くのが少し難儀な距離だったが、私には行ける喜びのほうが大きかった。母の実家は自転車屋だった。道路に面してガラス戸が並ぶ。そのガラス戸をガラガラと音を立てて開けると其処は自転車の作業場だ。母はまっすぐ作業場の奥にある茶の間に入って行くのだが、私は作業場に居るのが好きだった。母の父(私には祖父)と母の弟(叔父)が営む街の自転車屋。今は、個人で営む自転車屋はあまり見かけなくなってしまったが、その頃はまだ客も多く、自転車の組立てから修理まで、なんでもこなしていた。タイヤの空気入れなどは無料でおこなっていたと記憶している。当時、子どもたちのあこがれのアイドルやヒーローが描かれた自転車、男の子が欲しがりそうなカッコイイライトが付いた自転車やヒーローの声がブザー音の自転車、いろいろだ。私はそういったものへの物珍しさもあったが作業場の匂いが好きだった。グリスの匂い、鉄さびを落とすときの匂い、独特の香りが私には心地よく、ずっと土間に座り祖父や叔父の働く姿を見ていた。茶の間では母や母の妹(私には伯母)たちが歓談していた。昼になると向かいのうどん屋から出前を取ってくれるのも嬉しかった。祖父は気前のいい私たち孫には優しいひとだった。やがて、叔父がお嫁さんを貰い、伯母たちが結婚して家を出ると母も実家へ出向く機会は減り私は友だちと遊ぶことのほうが多くなり年に一回か二回くらいしか母の実家には行かなくなってしまった。そして、ホームセンターなるモノが建ちはじめ、手ごろな値段で自転車が買えるようになり、すると街の自転車屋は客が減り最後には廃業してしまい道路に面したガラス戸は閉じられたままになる。それでも作業場だった場所は、ずっと変わらず自転車屋の匂いは残っていた。懐かしい香りの思い出だ。
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