「何もかも憂鬱な夜に」中村文則

恥ずかしながら中村さんが芥川賞作家と知ったのは少し前のこと。そして、買っておきながらタイトルだけで『重たい内容だろう・・』と勝手に決めつけ「いつ読もうか?」「今の私に読めるだろうか?読んでもいい作品だろうか?」と表紙にカバーをかけて隠してしまい、読むのに躊躇した本。だけど、片付けることも出来ずいつもそばに置き、突然、何かの力に引っ張られるかのように手に取り読み始めたら、あとは一気に読み進めることが出来た作品。

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。


読み終わった後に、心のうちが満たされた思いになった作品は久しぶり。開く勇気が無かった読む前の自分が情けなく思いました。確かに、目を背けたくなる描写や登場人物の行動や会話など重たい内容も多く、でもそれ以上に生と死、生命を「何もかも憂鬱になるぐらい」掘り下げて、そしてラストに光が。暗いままなのに一筋の光を与えてもらえた気持ちになりました。ただ、「肉親とのつながり」ということに限定するなら狭い了見でしか物事をみれない今の私にはちーと考えてしまい・・・・・。
それでも、読後の気分は思いがけず良いものだったことは事実。私にとってこの本は大切な一冊になりました。出会えて良かったと思える本です。解説をピース又吉さんが書いています。とても良い文章です。


以下、主人公の『僕』に『あの人』と呼ぶ恩師が語る言葉を載せます。

『お前は・・・・アメーバみたいだったんだ。分かりやすく言えば』
『温度と水と光とか・・・・他にも色々なものが合わさって、何か、妙なものができた。生き物だ。でもこれは、途方もない確率で成り立っている。奇跡といってもいい。何億年前の』
『その命が分裂して、何かを生むようになって、、、そして人間になった。何々時代、何々時代、を経て、今のお前に繋がったんだ。お前とその最初のアメーバは、一本の長い長い線で繋がってるんだ』
『これは凄まじい奇跡だ。アメーバとお前を繋ぐ何億年の線、その間には無数の生き物と人間がいる。どこかでその線が途切れていたら、何かでその連続が切れていたら、今のお前はいない。いいか、よく聞け』
『現在というのは、どんな過去にも勝る。そのアメーバとお前を繋ぐ無数の生き物の連続は、その何億年の線という、途方も無い奇跡の連続、いいか?全て今のお前のためだけにあった、と考えていい』
- 154~155ページ


『お前は、何もわからん』
ベートーヴェンもバッハも知らない。シェークスピアを読んだこともなければ、カフカ安部公房の天才も知らない。ビル・エヴァンスのピアノも』
黒澤明の映画もフェリーニも観たことがない。京都の寺院も、ゴッホピカソもまだだろう』
『お前は、まだ何も知らない。この世界に、どれだけ素晴らしいものがあるかを。俺が言うものは、全部見ろ』
- 156~157ページ


『自分以外の人間が考えたことを味わって、自分でも考えろ』あの人は、僕達によくそう言った。『考えることで、人間はどのようにでもなることができる。・・・・世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、自分でつくりだすことができる』
- 160ページ

押し付けともいえるかもしれないけど、こんなに熱く真っ直ぐに自分のことを思ってくれるひとの存在。ひとがひとを思う気持ちの深さに感じ入りました。その後、主人公である『僕』は、この恩師から受け継いだ言葉を発する場面があるのですが、その場面に私はイチバン、グッときました。あ~、つながっているのだ・・・と。

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